動けばそれでいい:最新技術を追わない理由
履歴書駆動開発の代償
最近、面接で「Kubernetes、Kafka、マイクロサービス、マイクロフロントエンド…」と技術の名前を並べ立てる候補者と話すことが増えた。全部触ってきたという。凄い。でも、だいたい本番で動いているのは何もない。
私は長くこの業界にいて、同じパターンを何度も見てきた。新しいものを試すのは楽しい。技術選定の会議で「これ採用しよう」と言うのも気分がいい。けれど、その数ヶ月後に残るのは、誰も完全に理解していない複雑なシステムと、対応に追われる少数のエンジニアだ。技術そのもののための技術は、ただのインチキ商法に過ぎない。
イノベーショントークンは3枚まで
Dan McKinleyがSoundCloudにいた頃に出したトークに「退屈な技術を選ぼう」というのがある。今でも印象に残っている、誠実な技術談義のひとつだ。
彼の言い分は単純だ。企業にはだいたい3枚の「イノベーショントークン」が与えられる。枠は固定で、新しさには予算がある。にもかかわらず、大半の会社はこの予算を無計画に使い果たす。
新しいデータベースを一つ採用する。それでトークンが一枚消える。別の言語ランタイムを入れる。もう一枚。新しいデプロイ基盤。これで三枚。ここで予算切れだ。残りはすべて、退屈で枯れていて、チームが読み切れるもので埋めるしかない。
退屈を悪と混同してはいけない
ここで言う「退屈」は悪口ではない。MySQL、Postgres、PHP、Python、cron。どれも何十年も叩かれていて、失敗モードが分かっている。夜中に叩き起こされるのは、退屈な技術のせいではなく、誰も検証していない新しすぎる技術のせいであることが多い。
Stack Overflowが何十億PVを少数のエンジニアで支えているのは、IISとSQL Serverのモノリスだ。Basecamp、Craigslist、Etsy。どれも退屈な土台の上に動いている。DHHが2025年にRailsの21周年を祝ったとき、肝は『最新』の技術ではなく、モノリスと小さなチームで21年動き続けたという実績のほうだった。
一番派手なAIも、土台は退屈
これが2025〜2026年で皮肉なところだ。OpenAIやAnthropicがやっている最先端のAIの仕事のほとんどは、FlaskかExpress、Postgres、pgvectorという、極めて退屈な土台に包まれている。イノベーションはモデルの中にあって、周りのインフラではない。
インフラが派手である必要は、どこにもない。
ただし、EOLは退屈ではない
一つだけ誠実に書いておく。退屈と「保守されていない」は別物だ。PHP 5、Windows Server 2012、パッチが来ない古いライブラリ。これらは退屈なのではなく、ただの負債だ。Aspen Digitalが2026年2月に出した「Lost Legacy」という報告も同じことを指摘している。寿命の尽きた技術を「枯れている」と呼んで放置するのは、退屈さへの信頼ではなく、無責任だ。
動けばそれでいい
私が最近、自分のプロダクトで判断するときに使っている基準は単純だ。
- チーム全員が読めるか
- 5年後にも動いているか
- 誰かがいなくなっても壊れないか
これらに「はい」と答えられるなら、たとえクールでなくても、それで十分だ。結局のところ、自分が作ったものが誰か一人、あるいは一つの企業にとって機能しているなら、それで十分なのだ。
必ずしも最新の技術、フレームワーク、ツールに追いつく必要はない。動けば、それでいい。